医療        
Medical System

 

世界の医療制度は、主に下記の3つのタイプに分けられます。

1.国営医療モデル

税金を財源として運営。全国民の加入し、保険料を支払うことが原則。公的医療機関が中心で、診療は無料。いくつかの条件をクリアしていれば、外国人が加入することも可能。(イギリス、カナダ、スウェーデンなど)

2.社会保険モデル
社会保険を財源として運営。全国民の加入し、保険料を支払うことが原則。公的医療機関と民間医療機関が混在し、診療にはいくらかの自己負担が必要。いくつかの条件をクリアしていれば、外国人が加入することも可能。(日本、ドイツ、フランス、オランダなど)


3.市場モデル
民間の保険会社が提供している保険を財源として運営。民間医療機関が中心に提供。あくまでも加入は自由。医療保険は商品で、個人個人で保険会社を選び、補償内容や保険料を設定。加入は自己判断であるため、経済的な理由などから加入していない者には、莫大な医療費がかかる。(アメリカ)

 

 

 

 

世界的評価が高い医療制度

 

 

上記の中では「2.社会保険モデル」あらかじめ保険料を支払うことにより、病気やケガが生じた際、医療サービスへのアクセスを保障し、経済的な負担を最小限にとどめようとする制度です。

 

Image:厚生労働省
Image:厚生労働省
健康保険証見本 Image:病院系ブラック診断サイト
健康保険証見本 Image:病院系ブラック診断サイト
大まかに、国民健康保険(自営業者、専業主婦など対象)・健康保険(会社員など対象)・共済組合(公務員、教職員など対象)の種類があり、毎 月納めなければいけない保険料は、加入者の収入により異なります。医療機関で治療を受けた際は、実際にかかった費用の3割(小学校就学前は2割、70歳以 上は収入により1割、または3割)を窓口で支払います。残りの費用は、医療機関が「審査支払機関」に請求。ここで請求が適正かチェックを受けた後、請求書 が保険者に送られ、保険者から医療機関へ支払われるという仕組みになっています。自己負担額の医療費総額が一定額を超え、高額になった場合、超えた分が支給される「高額療養費制度」での救済があります。

日本の医療保険は・・・

国民皆保険

医療費や薬剤費は日本全国統一価格。誰でも平等に医療を受診可能。

 

フリーアクセス
提供されている医療サービスは、地域や病院によって差があるものの、保険証があれば全国どこの医療機関(専門医療も含め)にもかかれる。

 

低い自己負担額 

医療機関が患者の診療行為を点数化した「出来高」を申請するので、患者の要望に応じた医療を提供することが可能。ある程度抑えられた自己負担額で、比較的高度な技術を得ることができる。


現物給付

診察、薬剤・診療材料の支給、処置・手術、入院・看護などの医療サービスそのもの(現物)を支給。

 

公費を投入

全国民に保険を・・・を維持するために、一部公費を負担。

といった便利なシステムになっているのが、「世界的評価が高い医療制度」と言われる理由です。
しかし、患者の診療行為の「出来高」を申請するシステムというのは、一方では、過剰な投薬や診療行為につながり易く、医療費を無駄に生み出してしまう可能性もでてきます。「世界一の長寿国」である日本の将来は、今後ますます厳しさを増すであろう超高齢化社会の現実は避けられません。その上、将来を担っていく重要な働き手の子どもが増えない「少子化」の状況では、国民からの保険収入がまかなえないかもしれません。また、「公費を投入しているという制度においての危うさ」を長尾クリニック医院長の 長尾和宏氏は、≪ブログ・Dr和の町医者日記≫にて、「日本の医療制度は、医師が低賃金で長時間労働をしているからこそ成り立っているが、どうやら大きな曲がり角にきているよう。」と、指摘されています。日本の財政状況が切迫して末期状態にあることは周知の通りです。今後、どのようにこの制度をキープしていくのか・・・が課題となっています。

 

 

 

 

 

「平等性」を重んじる国負担の医療制度

 

 

カナダでは “Healthcare” や “Medicare” と呼称され、上記の中では「1.国営医療モデル」にあたります。一定の条件(カナダ国籍保持者・永住権保持者・難民指定を受けた者など)をクリアした全国民は、加入が義務付けされ、州によっては、外国人でも条件付きで加入可。あらかじめ収入に応じた基本保険料を支払っておけば、主な医療サービスを税財源で公的に負担する制度です。つまり、歯科診療・眼科診療・処方薬剤(入院中を除く)・リハビリ治療・美容整形・救急車利用など、一部の医療サービス以外は、全額無料。低所得者には助成制度があります。
Image:OECD HEALTH DATA 2012
Image:OECD HEALTH DATA 2012
Image:OECD HEALTH DATA 2012
Image:OECD HEALTH DATA 2012

州健康保険証サンプル        Image:Wikipedia
州健康保険証サンプル        Image:Wikipedia

「気軽にかかりつけの医師にかかることができて自己負担がない」という観点からは、カナダの医療保険制度は非常に魅力的ですが、それ故に維持していくのにはいろいろな問題点もあります。

高騰する国負担の医療費

病院にも行きやすいため、国の医療費負担も年々増加。「OECD HEALTH DATA 2012(上記)」によると、G7諸国における総医療費中、カナダは世界で2番目に医療費がかかる国にランクされています。これに歯止めをかけようと、日本にはない「ファイリードクターの診察を受けて紹介されなければ、専門医(循環器科・消化器科・整形外 科耳鼻科など)の診察を受けることはできない」というシステムを採用。日本のように、そう簡単にはさまざまな医療機関に行かれないような対策をとっています。

 

ファミリードクター探し

医療機関にかかる最初の登竜門であるファミリードクターですが、実数が少なく、患者数を制限することが許されているため、「新しい患者受け入れOK」の医師探しは難航することが多いです。人気のない新米医師なら別ですが・・・ここは、友人などのコネを最大限に利用するか、情報網を駆使して探しまくるしか術はありません。

  

※ファミリードクターがいない人が受診できるのは、「ウォークインクリニック(Walk-in Clinic)」と呼ばれる医療機関ですが、予約はできない場合が多く、場所によっては常に混雑。数時間待ちが平均です。簡易施設なので、基本設備を設置していないところがほとんど。医師の指定も、救急外来もできません。

 

アクセスの悪さ&待ち時間の長さ

運良くファミリードクターを持てた場合でも、医師は基本的に保険医であり診療報酬に上限が設けられ、1日の診察人数を制限しているため、予約が1~2週間後ということもあります。

 

各々の外来医療機関にも、毎年、受診患者数が定められていて、上限が3000人と決められた医療施設では、3000人になるまでは国からの医療費は全額支払われますが、それを越えると、かかった医療費の半額しか医療施設には支払われなくなるという制度に加え、専門医も不足しているので、受診するまでの待ち時間が信じられないくらい長くなってしまうのが現状です。

 

the Fraser Instituteが「“Waiting Your Turn: Wait Times for Health Care in Canada,”」で発表した2013年度の待ち時間の平均は18.2週間。前年よりも3日間長くなりました。ちなみに、20年前は 9.3週間。約半分だったのですね。特に、緊急性のない整形外科手術(orthopedic surgery)の場合、39.6週間。神経外科医(neurosurgeon)との予約を取るだけでも17.4週間。ガンの放射線治療でさえも、最短で3.5週間。オタワ病院のケースでは、人工股関節置換術で372日。手術を受けられるのは1年以上先という状況です。34人に1人のカナダ人は、痛みに耐え、休職を余儀なくされ、治療を待つ過程でうつに悩まされているのではないか・・・と推測しているのも無理はありません。

 

勿論、命に関わるような緊急性のある場合には、各総合病院の救急外来(Emergency)で受診可能ですが、そこでも緊急性には順番がつけられ、単純症例で5.2時間、複雑症例で14.6時間ともいわれています。(オタワ病院の場合--州の保健省のホームページ情報)


経済的に余裕のあるカナダ人の中には、アメリカの民間の保険会社と契約をして、アメリカまで出かけて行って治療を受けている人もいるそうです。

サスカチワン州医師会の広報担当責任者は「カナダ人は緊急性の低い医療は長く待たされてもいいと思っている。ただし、金持ちも貧しい人も同じ時間だけ待つのが条件だ。」との見解も。カナダの医療保険制度の倫理観は「平等性」が土台になっているようですが、一方では疑問を持つ人々も増え、民間医療機関(プライベート クリニック)が一部の州で解禁。高額な自己負担ではありますが、待ち時間を短縮したい富裕層を中心に利用されています。

 

 

【各州の健康保険機関】

 

 

【各州の医師検索サイト

 


健康ハンドブック

カルガリー医師会作成の「Healthwise Handbook by Calgary West Central Care Network」の日本語訳。カナダ版「家庭の医学」といった内容で、特に医療へのアクセスの不便なカナダの状況に合わせて、「救急911を呼ぶべき時・医師に行くべき時・家庭での対応方法」が症状別・疾患別に解説。目次は英語でABC順になっていますが、巻末に日本語のあいうえお順でも掲載しています。(在カナダ日本国大使館)

 -- カナダ医療情報

 -- 健康ハンドブック(PDF版)