発達障害トンデモ予防法を信奉する埼玉県知事【埼玉】

3年前、文部科学省は『脳科学研究ルネッサンス』という報告書で「発達障害を予防する方法を開発し、発達障害を大幅に減らす」と高らかに宣言した。今夏、埼玉県が全国に先駆けて発達障害を含む子供の発達支援に取り組むプロジェクトチームを発足させ、保育、教育、医療、福祉の関連部局の課長クラスの職員で構成した4段階に分けた部会で、発達障害児と親支援に県を挙げて取り組むこととなった。

第1段階は発達障害の予防、第2段階は早期発見、第3段階は早期支援、第4段階は教育支援で、有識者ヒアリングを踏まえて9月を目途に課題をまとめ、具体策を検討し、実施する。

ところで、発達障害の予防、早期発見・支援の緊急性について問題提起した4月19日付本欄の拙稿「豊かな言葉がけ見直そう」は大きな反響を呼んだ。発達障害児の生誕前後のリスク要因などの環境要因の重要性を指摘し、改善の成果をあげている澤口俊之氏の学説は学会の定説ではないが、文科省の脳科学の検討会の委員も務め一定の評価を得ている。

また(1)豊かな言葉がけで目を見て話す(2)あやしと笑わせ(3)「たかい、たかい」などの伝統的な子育てによって、予防・治療指導に画期的な成果をあげた金子保氏の実践も注目に値する。

発達障害の原因解明は専門家に委ね、今、行政、親は「児童の最善の利益」のために、何ができ、何をすべきなのかを考え、実行に移すことが大切である。

動物は本能によって繁殖の作法と子育ての文化を継承するが、人間は教育(学習)しない限り、子育ての文化は断絶してしまう。元来、「教育」も「学習」も子供の手本となる親の役割を意味する漢字であるが、伝統的子育てを体験し教育できる世代は減少の一途をたどっており、「親になるための学び」「親としての学び」の場を国や地方公共団体がシステムとして提供する必要が生じている。

元上野動物園園長の中川志郎氏によれば、鳥の「親子の絆(きずな)」は第1に聴覚的に結ばれ、第2に視覚的に結ばれるという。人間の「親子の絆」が結ばれるためにも、前述した「豊かな言葉がけで目を見て話す」という聴覚と視覚からの働きかけが必要不可欠といえる。

大脳生理学の権威で元東大教授の時(とき)実(ざね)利彦氏は、自閉症の治療方法として(1)抱きしめる(2)突き放す(3)見つめる-の3点を挙げた。これは日本の子育ての伝統とみごとに一致する。

埼玉県では母子健康手帳交付時から3歳までの親に対して、情緒の発達を促す伝統的な子育ての普及による発達障害の予防などを検討している。このプロジェクトは国を挙げて取り組むべき緊急を要する国家的事業である。

従来の縦割り行政の悪弊を打破し、「発達障害課」の新設など行政の責任の所在を明確にした上で、官民一体となって連携協力する新たな仕組みが必要である。埼玉県の成果が突破口となって全国に広がることを期待し、全力で応援したい。

 

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