大分駅・人々の善意の「1坪コーナー」 【大分】

JR大分駅改札口前の商業施設「豊後にわさき市場」の一角に、県内の高次脳機能障害患者の家族会が小さな「店」を立ち上げた。飲食店などが並ぶ一等地だが、場所は無償で提供され、店番は協力を申し出た人が交代で担当する。人々の善意が生み出した「一坪コーナー」だ。

 

コンコースから「市場」に入ってすぐの洋菓子店「ビースピーク」。ロールケーキが有名だ。約6坪ある店内の約1坪に、そのコーナーがある。「高次脳機能障害無料相談コーナー」で、大分市の地域福祉作業所「工房きらら」に通う高次脳機能障害の患者が作ったブックカバーやコイン入れなどの革製品を販売。立ち寄った人に家族会のパンフレットを配ったり、相談を受けつけたりしている。

 

ビースピークを経営する由布院温泉の旅館「山荘無量塔(む・ら・た)」が「少しでも助けになれば」と場所の提供を申し出た。家賃はタダ、展示ケースも用意した。家族会「脳外傷友の会『おおいた』」(萱嶋陸明会長)は「高次脳機能障害があっても言い出せない人は多いはず。社会的な理解を広めるきっかけになれば」と応じて「出店」が実現した。

 

問題は店番だった。豊後にわさき市場は無休で、営業時間も午前9時半~午後9時と長い。家族会にはアルバイトを雇う余裕がなく、各方面に協力を呼びかけたところ、会員のほか、福祉を学ぶ大学生や萱嶋さんの昔の職場仲間、看護師ら計36人が集まった。店番は1日3交代。家族会の収益はゼロとし、店に立つ人たちに売上金を均等に分配するという。売り上げ目標は1日1万円。3月は「市場」自体のオープンとあって15日間で30万円を売り上げたが、4月に入り、やや落ちたという。千円に満たない日もある。

 

店に立つ大分大4年の大窪揚絵(あき・え)さん(21)は「ボランティア感覚なので、お金をもらうのは申し訳ない。下の学年にも呼びかけ、店を支えたい」と話す。萱嶋さんは「どこまでやれるか分からないが、とにかくやってみようと始めた。ここで同じ悩みを打ち明けられたりして、患者の励みにもなっている。様々な善意が積み重なって実現した奇跡の一坪コーナーであることを忘れず、頑張ります」と話している。【2012.4.21 朝日新聞】