社会全体でサポート 発達障害、正しく理解を 親たちを追いつめないで【大阪】

今月上旬、大阪維新の会大阪市議団が成立を目指した「家庭教育支援条例案」の原案に「乳幼児期の愛着形成の不足が軽度発達障害などの要因」といった内容が盛り込まれ、抗議が殺到、白紙撤回された。発達障害は先天性の認知機能障害ということが、1970年代頃から医学的に定説となっている。しかし、今も発達障害の子供たちを育てる親たちは心ない言葉や偏見に苦しんでいる。現場を取材した。

情報交換や相談

「感情表現がうまくできない子供が夜中に大声で泣いたら、虐待を疑われて通報された」「子育ての相談窓口の人でさえ、正しい知識を持っていないことがあるよね」

 発達障害児を持つ親の会「チャイルズ」(大阪市港区)。条例案のニュースを聞いた親たちが、口々に悩みを語った。

 

チャイルズには現在、大阪市内に住む約80人が在籍。定期的に勉強会や相談会を開きながら、情報交換したり、互いの悩みを相談したりしている。

 

「私たちは勉強会などを通して知識もある。仲間もいる。でも今、子供が発達障害と診断され、動揺しているお母さんが『発達障害は親の愛情不足が原因』といった言葉を聞いて、どれほどショックを受けたか心配です」と、代表の是沢ゆかりさん(45)。是沢さんは次男(14)が重度の発達障害だが、「小さい頃、だっこしようとしても嫌がってかみついた。その様子を見た人に『もっと愛情を注いであげて』と言われ、まだ私の愛情は足りないのかと自分を責めた」と振り返る。

 

「母親は自分を責めてしまい、子供の障害を周囲に打ち明けられずに孤立してしまう。そんなことになれば、虐待にもつながり、悪循環を生むことにつながりかねない」

 

 

傷つく家族

発達障害とは、自閉症やアスペルガー症候群などの広汎性発達障害、学習障害(LD)、注意欠陥多動性障害(ADHD)といった総称。乳幼児期から学童期にかけて症状が明らかになる。自閉症の場合、視線が合わなかったり他者とのコミュニケーションにおいて困難をきたしたりすることなどから、周囲が気づくことが多い。

 

発達障害に詳しい神戸大学大学院保健学研究科の高田哲教授(小児神経学)は「50年ほど前には、発達障害を親の育て方と関連付ける考えもあった。しかし、70年代頃から先天性の認知機能障害であると定義されている。現在では、脳の器質的・機能的な障害であることは医学的にもはっきりしている」と話す。その原因についてはまだ解明されていない部分も多いという。

 

ただ、原因が目に見えないため、親は自分の育て方や子供への接し方に問題があったと自分を責めてしまう。そのため、高田教授は発達障害の診断を親に告げる際、脳の機能障害によるものだと伝えている。「育て方が原因ではないのを知ってほっとした」という親も少なくないという。

 

高田教授は「誤ったメッセージに家族は深く傷つく。早期からの適切な療育や支援で障害から来る生きにくさを軽減し、成長や発達を促すことはできる。発達障害をきちんと理解して社会で温かく見守ってほしい」と訴える。

 

子育て支援に詳しい恵泉女学園大の大日向雅美教授(発達心理学)は「発達障害の問題に限らず、子育てをめぐる問題を全て親の責任としてしまう風潮がある」と指摘。そのうえで、「親だけに『がんばれ』と言って追いつめないで。親が安心して子育てできるように社会全体でサポートしてほしい」と話している。

 

2012.5.17 産経ニュース