自閉症引き起こす遺伝子疾患の研究進む【USA】

自閉症の子どもを持つ親が発する最も苦しく切ない問いの1つに「なぜ」がある。 今、ますます多くの遺伝子関連検査が答えを出している。 自閉症の症例の約20%はこれまでにわかっている遺伝子の異常に関連づけられると科学者は指摘する。さらに、今後も多くのことがわかってくるだろうと述べている。

遺伝子による説明を正確に示すことは兄弟姉妹が障害を持つ可能性があるかどうかを予測する一助となりうる。さらには、新しい「標的治療」さえ可能となるかもしれない。例えば先週、研究者らは実験的な薬剤「アルバクロフェン」が、単一で自閉症の原因となりうる最も一般的な遺伝子「脆弱(ぜいじゃく)X」によって引き起こされる脆弱X症候群の症状である「ひきこもり」や「挑戦的な態度」といったものを、子どもの場合も大人の場合も軽減したと報告した。  

 

米カリフォルニア州マデラ在住のカリ・ウィーラーさんの11歳の息子マックス君は脆弱Xと自閉症を持っている。マックス君はレストランで座るだけで「知覚過負荷」となり、自分自身のなかか、DVDプレーヤーに逃避するしかなかった。それが今では食べ物を注文したり、ウエーターと目を合わせたり、人とあいさつを交わしたりすることができる、とウィーラーさんは言う。「今までは一度も、決して(マックスが)しなかったことだ」と話す。  

 

地元サッカーチーム「ホーク」の応援マスコットのマックス君は、今ではスタジアム中が「調子はどうだい、マックス」と叫んでも平気だ。マックス君も「調子は良いよ、ホークのメンバーのようにね」と応じる。  

 

自閉症スペクトラム障害(ASD)とは、アスペルガー症候群にみられる社会的不適合や興味の狭さといったものから、深刻なコミュニケーション障害や知能障害といった症状までをまとめて呼んだものだ。米疾病対策予防センター(CDC)によると、現在、米国の子ども88人に1人がASDだと診断されるという。2002年の2倍近い数字だ。  

 

単一の血液検査や脳スキャンではASDを診断することはできない。これは環境要因が大きな役割を果たしていることも一因だ。しかし症状や言動のテストに基づいて子どもがASDと診断されれば、研究者らはさかのぼって遺伝子的原因を探ることができる。  

 

米小児科学会(AAP)と米臨床遺伝学会(ACMG)は子どもがASDと診断された場合、脆弱X症候群の検査とほかの染色体異常の検査を受けた方がいいと指摘する。最新の検査は染色体微量分析と呼ばれるもので、DNA配列の超顕微鏡的な欠損や重複といった自閉症に関連するとわかっている遺伝子の異常を診断することができる。これらの診断法を合わせれば、自閉症の10%強のケースで遺伝子を原因とする説明がつく。  

 

自閉症に関係する複雑な神経系疾患に400~1000の個別の遺伝子が関わっていると専門家は推測している。一度に多くの遺伝子の配列を決定する新しい技術のおかげで、遺伝子の突然変異を探る検査法は増加している。  例えば、ニューヨークのマウントサイナイ医科大学では自閉症やほかの発達障害に関係するとわかっている突然変異を30の異なる遺伝子について調べる血液検査を実施している。  

 

自閉症に関係する遺伝性疾患の一部は高い確率でガンや発作、心疾患といった病気のほか、何らかの健康障害を引き起こすことがあるため、それを知っておけば家族や医師がこれらの病気に対して用心することができる。  

 

一方、自閉症の専門家は、遺伝子関連検査だけで診断すべきではないと指摘する。環境要因が同様に重要な役割を果たしていると示唆するいくつかの研究があるからだ。  192組のASDの一卵性双生児を対象に昨年実施された過去最大規模の調査によると、双子のうちの1人が自閉症と診断された場合、遺伝子構成が同じにもかかわらず、もう1人が自閉症になる可能性は70%にとどまる。  

 

二卵性双生児の場合は、もう1人が自閉症になる可能性は35%で、これはほかの兄弟の場合の約2倍であることがわかった。非営利の自閉症支援団体オーティズム・スピークスで臨床プログラムのバイスプレジデントを務めているClaraLajonchere氏は「これは彼らが共有した胎児期の環境の何かがリスクを高めていることを示唆している」と指摘する。  

 

未熟児、分娩(ぶんべん)時の低体重、母子感染、母性栄養といった環境要因は、親の高齢化と同様、自閉症に関係があるとされてきた。専門家のなかには、父親の年齢が高くなればなるほど、精子の遺伝子エラーが起こりやすいと指摘する向きもある。  自閉症のほとんどのケースはおそらく遺伝的要因と環境要因が組み合わさったものだと専門家は指摘する。  

 

マウントサイナイ医科大学のシーバー自閉症センターでディレクターを務めるジョセフ・バクスボーム氏は「かつては遺伝学分野で最も手に負えない障害だったが、われわれは進歩している」と述べた。

 

2012.10.3 ウォール・ストリート・ジャーナル