「魔法のじゅうたんプロジェクト」の成果報告会【東京】

情報端末を活用して障がいのある子どもたちの生活や学習支援に役立てることを目指した「魔法のじゅうたんプロジェクト」の成果報告会が東京大学先端科学技術研究センターで開催された。

 

東京大学先端科学技術研究センターとソフトバンクグループは、携帯電話・スマートフォン等の情報端末を活用して障がいのある子どもたちの生活や学習支援に役立てることを目指した「魔法のプロジェクト」を2009年から実施している。2012年からは「魔法のじゅうたんプロジェクト」をスタート。携帯情報端末を学校外に持ち出すことも想定し、幅広い活用場面での取り組みを行っている。

基調講演

 

基調講演で中邑賢龍教授は、タブレット端末を特別支援教育の中で活用する意義について述べた。「まずは、タブレットが本当に必要な教育か考えること。タブレット端末でなくてはできないことをもっと意識して指導を行う必要がある。次にその子どもにタブレット端末が本当に必要どうか。子どもは、タブレットを『自立して使える』『教師の補助があれば自立して使える』『自らは使いこなせない』という3つに分けられる。タブレットは誰でも使うことができるが、使いこなせずにおもちゃになってしまう場合もある。そして、何のために必要なのか。情報機器は『学ぶためのツール(instruction)』『評価管理のためのツール(management)』『能力を補強拡大するツール(aid)』と言われる。タブレットは、個人が常に携帯し、初めてPCとの違いが出る。記憶の外在化や個々の能力を補うために能力の一部として組み込むことで、他の子どもと同じことができるようになる」

 

タブレット社会の教育が創世する未来社会として、タブレットが子どもの能力の増大拡大をもたらすと指摘。その結果として、タブレットの機能を利用することでできることが増えた子どもが自信を得る、従来と異なる新しい能力観の議論が起こる、合理的な配慮の議論が進む、多様性を求める教育が拡大する、普通教育の中で特別支援教育が拡大する、マイノリティを取り込んだ教育が行われる、障がい者の就労の拡大、これらが実現するのではと話した。

 

 

実践報告

 

●理解が深まる

島根県安来市立赤江小学校特別支援学級の井上賞子教諭は、それぞれの児童にどのような指導を行うべきかを考え、それが実現できるアプリを探して活用している。文字と音の結びつきに弱点がある児童の指導にiPad用アプリ「Paintorne」と「おしゃべり絵本」を使って、国語のテストの問題文を段落ごとに読み上げたり、設問を読み上げて、児童は何度でも聴き直すことができるようにした。これにより、児童の得点が大きく伸びたという。

 

●iPhoneが心の眼を開く

  大阪府立視覚支援学校高等部2年の杉井秀平さんは、「iPhoneで『eye』を開く」という視覚障がい学生自身が情報収集、活用を行った事例を報告した。

  同校では金環日食の観察に当たって、Light Detector(感光器 アプリ) というカメラに写った部分の明暗を音の高低で示すアプリと、Color Identifierという色の名称を音声で読み上げる英語のアプリを利用した。「中心が暗く、周辺が明るいことが分かった。2つのアプリを使うことで、iPhoneが全盲者用の日食グラスになった。iPhoneを使うことで心の眼(まなこ)が開き、見えるものが増えていく実感がある」と話した。

●学校外での活用も課題

  大分県立宇佐支援学校の高野嘉裕教諭は、今回ipadを使った実践を行って、課題も感じたという。「将来的にも使い続けていくツールとなった場合、支援の中心は家庭となる。家庭での継続的な活用があって、初めて生徒の活用ツールとして使っていけることになる。上の学校に進んだ時は、教員同士の連携に家庭の支援があれば、成果をうまく引き継いで行けるのではないか。しかし、家庭が中心になって活用する場合は、支援をしてくれるところが非常に少ないという現実がある。家族が簡単に相談できるところがあることと、iTunes Storeに教員が作った支援アプリを簡単にアップできるようになればいいのではないか」と話した。

 

魔法のじゅうたんプロジェクト 協力校を募集

「魔法のじゅうたん」を「魔法のランプ」に発展させて、参加校を募集している。「魔法のランプ」は、校内での学習はもとより、障がいのある子どもたちが必要とする場所のどこででもメガネのように情報機器を活用し、社会参加を促進する取り組みに発展させたいという趣旨だ。担当教員を応募者とし、対象となる具体的な児童生徒(対象者)との実践を計画して応募する。担当教員と対象者のペアで1組とし、組ごとに応募。同じ学校から複数の教員が応募することも可能。

 

■対象校 日本国内の特別支援学校、小中学校・高等学校の特別支援学級、障害者職業能力訓練校、障害者職業能力開発校であること。障がいの種別、公立・私立は問わない。

■管理者の承認 学校長が本プロジェクトの趣旨に賛同、担当教員の応募と採択後の実践について承認し、採択後は本プロジェクトに学校として参加する旨の受諾書に押印する。

■応募方法 「魔法のプロジェクト」HP(http://maho-prj.org/)内「魔法のランププロジェクト研究協力校募集要項」から応募。2月25日17時締切。

 

2013.2.4 教育家庭新聞