障害者の「性」 福祉の現場は黙殺していないか 自慰行為支援のガイドライン 新潟 「ホワイトハンズ」が作成【新潟】

「障害者に性欲はない」との誤解があったり、日常生活に追われて性の問題まで手が回らなかったり…。こうした福祉の現場を変えていこうと、新潟市の一般社団法人・ホワイトハンズが「知的障害・発達障害児者への射精支援ガイドライン」を作成した。自慰行為の仕方やマナーをイラスト入りで解説し、約250部を販売。法人代表理事の坂爪真吾さん(31)は「性は睡眠や排泄(はいせつ)と同じように基本的欲求。医療、介護、福祉の中で黙殺されている現状を改善したい」と話している。

ガイドラインを作成するきっかけとなったのは、坂爪さんが実際に対応した事例だった。

《20歳の自閉症の男性が、作業所の女性に抱きついたり、つきまとったりする。父親はおらず、母親一人で「自慰行為がうまくいかず、欲求不満になっているのでは」と悩んでいた。そこで、保健師と共に自治体の支援センターなどに相談したが「性問題には関わりたくない」「余計なことを教えないで」と
いう反応ばかりだった》

ガイドラインは昨年2月に完成した。31ページで構成。男子の射精や自慰行為を女性でも教えられるよう、イラストを多用して手順を示した。視覚的な指導が有効な子には特に効果的だという。性器を清潔に保つため、入浴の際の洗い方も説明。自慰行為をしてもいい時間などを記入する「約束表」の作成例も盛り込んだ。

1年前にガイドラインを購入した母親(41)に話を聞いた。知的障害を伴う自閉症の男子高校生を育てており、小学6年生のころから自慰行為に興味を持つようになったという。「息子はなかなかうまくいかず、イライラしていました」。母親自身も、成長の証しとは分かっていても、初めは受け入れられなかった。やめさせようとして情緒不安定になり、暴れたこともあった。

夫は仕事が多忙で幼いころから子どもと触れ合う機会が少なく、協力は得られなかった。同級生の親に相談しても「うちはまだ」という返答ばかりだった。

試行錯誤の末、今ではガイドラインを参考に、場所を決めるなど一定のルールを作ることができた。母親は「息子は恥ずかしいという感情を持ちにくいので、人前でやってしまわないか心配。学校の性教育でも取り入れてほしい」と話す。

福岡市発達障がい者支援センターにも「自慰行為がうまくできない」「子どもに教えられない」といった相談が寄せられている。

女性支援者や母親が自慰行為を指導すると、男子本人が「常に女性と一緒にするもの」と思い込んでしまう可能性もあるという。そこで所長の緒方よしみさんは「そう思わせない工夫が必要。できれば父親や男性支援者がする方が望ましい」と指摘する。

「性への興味や関心には個人差があります。欲求を肯定した上で、本人のペースに合わせた支援が必要」と緒方さん。女性の障害者については「性的虐待の被害を防ぐため、体の見せてはいけない大事な部分をきちんと教えることも大切」とアドバイスする。

今月、ホワイトハンズが福岡市で勉強会を開いた。福祉施設の職員を中心に約10人が参加。ガイドラインも配られ、活発な議論が繰り広げられた。

「障害がなければ自然と身に付くが、教えるのは難しい」「自慰行為ができることが自信や情緒の安定につながる」…。こうした声を踏まえ、坂爪さんは「性に関する支援は特別ではなく、日常生活の中で当たり前に行われるべきです」と強調していた。

 ◇「知的障害・発達障害児者への射精支援ガイドライン」は一部2千円(送料込み)。希望者はホワイトハンズ=025(230)3703=へ。

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 ▼ホワイトハンズ 2008年に設立。「障害者の性に関する尊厳と自立を守る」ことを目的とし、障害のため自力で射精できない脳性まひなどの男性に、介護の一環として有料で「射精介助」を行う。介助者はゴム手袋を着用し、利用者が介助者の体に触れることや性的な会話はできない。福岡県など18都道府県で延べ約380人が利用している。全国各地で「障害者の性」に関する勉強会も開催。

2013.4.27 西日本新聞朝刊

 

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