働く知的障害者と指導員 信頼深めるツール、NPO法人がマニュアル作成【横浜】

県内の特例子会社などで構成するNPO法人「障害者雇用部会」(横浜市磯子区)が企業で働く知的障害者を指導する人向けに作った「企業の指導員のための指導マニュアル」が好評だ。指導員の“教科書”ではなく、障害者とともに働くために何が必要かを指導員自身が考え、それを現場で生かす「ツール」との位置付けで、労働現場や企業の研修会などで活用されている。

勉強会として発足した同部会は、2003年にNPO法人化。企業や福祉施設、教育関係者など異なる分野の団体が集まり、それぞれのノウハウや知識を集めて障害者を雇用する企業を支援してきた。土師修司理事長は、「互いの理解を深めることで知的障害者に長く、一人でも多く働いてもらうことが基本理念」と話す。現在、同部会の会員企業30社で、1245人の知的障害者が働いている。

学校や福祉施設では、専門家が知的障害者をフォローしている一方、企業では福祉に携わった経験のない人が指導員になるケースがほとんど。そのため「企業側がプロになり、ノウハウを蓄積する必要がある」と、マニュアル作りに取り組んだ。

知的障害者を雇用する企業などが情報を持ち寄った全国的にも珍しいマニュアルは、昨年11月に完成。「仕事だけでなく、生活面の指導も行う」「抽象的な表現は避け、具体的な言葉で説明する」など、指導員の役割や守るべきこと、知的障害者の特性、接し方の基本などが事例を交えて解説されている。

実際の労働現場でも役立てられている。

日本ロレアルの特例子会社、エヌ・エル・オーさいわいファクトリー(川崎市幸区)。10年6月に業務を開始し、18人の知的障害者が働いている。輸入化粧品に日本語のラベルを貼ったり、化粧品のセットを袋詰めしたりするのが主な業務内容だ。

指導員の横野心一さん(41)は、同社の立ち上げ時に親会社から出向した。ボランティアで障害者と関わった経験はあるが、一緒に働くのは初めてだ。各人の勤務状況などを細かく記録するなど、独自の工夫も重ねているが、マニュアルにあった「『子どもに話しかけるような話し方をしない』という項目を見て、社会人なので、やりすぎていたと感じた」と振り返る。もう一人の指導員で、契約社員の三宅治巳さんも「困ったときに開き、ヒントとして使っている。読むことで初心に戻ることもある」と話す。

マニュアルは、あくまで指導員がヒントを得るためのツールという位置付け。そのため、ことし3月に印刷した第2版から、冒頭に「障害者を雇用する企業はこうあるべき、と定めているものではない」との注意書きも添えた。土師理事長は「マニュアルは総論で、重要なのは根っこにある指導者と障害者の信頼関係。その関係をつくるためのものでもある」と話す。

今後、同部会に加盟していない企業や支援機関などへの配布も検討している。問い合わせは、障害者雇用部会電話045(270)5825。

 

2013.5.14 カナロコ