【映画】知的障害持つ娘と父、明るくも残酷に〜あす公開「くちづけ」 こんな現実、冗談じゃない【JAPAN】

知的障害者たちのグループホーム「ひまわり荘」での、ある親子愛を描く「くちづけ」(東映配給)が25日、公開される。昨年末に解散した、宅間孝行(42)主宰の劇団「東京セレソンデラックス」の伝説の舞台を映画化したもの。笑いと涙を媒体にして、強烈な不条理を突きつける。脚本は宅間自身が書き、出演もしている。

 

宅間がこの芝居を作るきっかけは、十数年前に読んだ短い新聞記事だ。余命わずかの男性が、知的障害のある息子を殺したという。心に引っかかり、さまざまな施設を取材して回った。知的障害者がホームレスや犯罪加害者になった例に衝撃を受け、「無知こそが罪だ」と感じた。「くちづけ」の結末は残酷だが、知的障害者を家族に持つ人が舞台を見た後、「これが現実だ。自分も何度も心中しようと思った」と言ったという。舞台を見て感動した堤幸彦(57)が映画版のメガホンをとる。

主人公は30歳のマコ(貫地谷しほり)。心は7歳のままだ。父(竹中直人)は「愛情いっぽん」というペンネームの漫画家だったが、マコを男手ひとつで世話するために休業している。いっぽんはひまわり荘に住み込みで働き始めた。元気過ぎるうーやん(宅間)や写真を撮りまくる仙波さん(嶋田久作)、下ネタを連呼する島ちん(谷川功)たちが暮らしている。オーナー一家も住人と本音で向き合う。こわばっていたいっぽんとマコの心は解きほぐされていく。うーやんはマコと結婚すると宣言する。いっぽんは再び漫画を描けるのか?

 

ひまわり荘でのやり取りは愉快だ。宅間いわく「映画版ではシリアス一辺倒の選択もあったが、知的障害者たちと一緒にいると、本当に笑ってしまう。わがままもうそも言う」。しかし、ユートピアは長く続かない。いっぽんには病気が見つかった。映画初主演の貫地谷は「結末の撮影はとてもつらかった。本番前は集中力を保つため、竹中さんと見つめ合った。カットがかかるたびに泣いてメークし直して……。初めて、早く家に帰りたくなった」と振り返る。

 

2013.5.24 毎日新聞