米国の自閉症、マイノリティーの子供に高いリスク―日本人は低リスク【USA】

米研究者の間では長い間、自閉症は民族や人種の社会的少数派(マイノリティー)よりも白人の子供に多いと考えられてきた。ところが、民族や人種が多様なカ リフォルニア州ロサンゼルスで出生記録を基に実施された新たな研究によると、母親が特定の国からの移民である場合に、特に自閉症のリスクが高い可能性があ ることが分かった。

母親が外国生まれの黒人、中南米人、ベトナム人、フィリピン人の子供たちは、米国生まれの白人の母親から生まれた子供よりも、自閉症と診断される可能性が高いという。この研究は小児科専門誌「ピディアトリクス」の電子版で23日に公表された。

母親の人種・出身地と自閉症の子供の数(中央・調整前、1万人あたりの人数)と米国生まれの白人の母親と比較した場合の割合の差(右端・調整後)
母親の人種・出身地と自閉症の子供の数(中央・調整前、1万人あたりの人数)と米国生まれの白人の母親と比較した場合の割合の差(右端・調整後)

研究ではまた、ヒスパニック系とアフリカ系米国人で米国生まれの母親を持つ子供は、米国生まれの白人の母親から生まれた子供よりも自閉症リスクが高いことも明らかになった。  研究結果は、妊娠時の母親の年齢や学歴、健康保険、その他の診断に影響すると見られる要素を調整して導き出された。  

 

この研究でシニアオーサーを務めたカリフォルニア大学ロサンゼルス校(USLA)の疫学者、ビート・リッツ氏は「こうした違いを調整すると、完全に違ったパターンが現れる」と話す。  

 

今回の研究結果で、脳の神経系が最初につながり始める胎児の時に受けるストレスや他の問題が自閉症の引き金になる可能性があるとする見方に弾みがつきそうだという。  

 

米国では、知能や社会性、言語面でさまざまな障害と結びついている自閉症と診断される子供が増えている。理由は不明だ。米疾病管理予防センター(CDCP)の推計によると、1万人の新生児のうち147人――約68人に1人――が自閉症と診断されている。  

 

UCLAの研究者は、より狭義で深刻な症例の自閉症障害に絞って研究した。全米で1万人あたり21人が診断される症例だ。  ロサンゼルス郡で1995年から2005年の間に生まれた160万人の子供たちの出生記録を調べると、そのうちの7540人が3歳から5歳の間に自閉症障害と診断されていた。併せて、出生記録に記載されている母親の人種や民族、出生地も調査した。  

 

それによると、米国生まれの白人の母親を持つ子供に比べ、外国生まれの黒人の母親から生まれた子供のほうが、自閉症障害になるリスクが76%高かった。ベトナム出身の母親の場合は43%、中南米出身では26%、フィリピン出身では25%、それぞれリスクが高いという結果が出た。  中国や日本出身の母親から生まれた子供のリスクは約30%低かった。  

 

メキシコ生まれのヒスパニックの母親を持つ子供は自閉症のリスクは低かったが、米国生まれのヒスパニック系とアフリカ系米国人の母親から生まれた子供のリスクは13%高かった。  

 

知的障害や言語障害、気性の激しさなどと合わせて自閉症障害をとらえても、同じようなパターンがみられた。  

 

研究は、中南米や東南アジアの自閉症の発症率に関する情報は限られていると断り書きを入れている。だがリッツ氏は、調査対象期間中にロサンゼルスで出産した外国出身の母親たちの多くは、それぞれの暮らしの中でトラウマや暴力、栄養面での困難な問題を抱えていたため、妊娠中の体に影響が出た可能性があると指摘する。  

 

また、母親たちは移住先の米国で、胎児の発達に影響が出るような馴染みのないウイルスにさらされた可能性もある、とリッツ氏は言う。  

 

社会的な要因も高い自閉症率の一因かもしれない。米国の他の地域と異なり、ロサンゼルス郡は所得水準や健康保険、在留資格に関係なく、自閉症の子供に対して無料で診断やサービスを提供している。同じ民族や移民コミュニティーの中での口コミが診断数に影響している可能性もあるという。  

 

リッツ氏は「可能性のあるリスク要因を見つけるための次のステップは、こうした子供たちを個別に調査し、妊娠中や移住する間に何が起こっていたかを両親に聞くことだ」と述べた。

 

【News Source:2014.6.25 The Wall Street Journal